あらすじ
景司は「確認の景司」と呼ばれるほど、慎重を通り越して心配性の男であった。契約書の数字を何度も読み返し、部下の書類も一字一句見逃さぬほどであったが、ある日、その網をすり抜けた一通の書類が重大な不始末を招いた。責任は部下にあったが、会社の上層部は管理不行き届きとして景司を処分する。景司は一切の弁解をせず、ただ責任を引き受けるようにして職場を去った。
孤独と失意のなかにあった景司のもとに、思いがけず手が差し伸べられる。かつて共に働いた同僚、すでに定年を迎えた先輩たち、そして自らの過失に苦しむ元部下、彼らは景司の誠実さを知っていた。景司は支えられながら再起の道を探り、小さな商いを始める。失敗と挫折を重ねつつも、慎重さを活かした堅実なやり方で徐々に信頼を取り戻し、人の輪を広げていった。
やがて景司のもとに集った人々は、新たな居場所を形づくってゆく。慎重さが悲劇を招いたのではなく、誠実であるがゆえに人を惹き寄せる力へと転じていた。景司は人生の終盤に至り、「確認の景司」という名が笑い話ではなく、人の心を守る誠意の象徴となったことを悟る。失ったものの大きさを胸に抱えつつも、人に支えられ、人を支えることで、静かな幸福に包まれてゆくのであった。