あらすじ

河西綾音(かさい あやね)について、近所の住人の知ることはほとんどなかった。すれ違えば挨拶する程度の付き合いこそあったが、元々濃密な近所付き合いのある地域でもなく、また彼女自身もあまり多くのことを語らなかったからである。 彼女についてわかっているのは、際立って美しいとは言えないまでも整ってはいる顔立ち、そして幼い息子がひとりいること。彼女の周りを小さな足で駆け回り、愛嬌のある笑顔を振り撒きながら母親に抱きつく、少し甘え癖の強そうな、彼女の息子。普段表情の薄い綾音も、そんな息子に対しては優しい声で名前を呼び掛け、時にはその胸に抱き上げたりもしながら微笑んでいたのだという。 仲睦まじい親子の姿は、そのふたりを見かけた誰もが覚えているほどに幸せそうなものだったが、近所の住人は口を揃えて言うのだった。 最近、息子である翔悟(しょうご)の姿を見かけなくなった、と。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2021/09/26
  • 現在の作品ナーサリーライムは黄昏の空に溶けた