あらすじ
神鹿に選ばれ、番(つがい)の契りを結ぶことでその力の一部を分け与えられる――彼らは〈鹿人〉と呼ばれる。
鹿人の少女カンナの村は、鹿人の力を狙う隣国アルファーン帝国に滅ぼされた。近隣の村々を蹂躙してきた帝国の手はついに彼女たちに及び、神鹿の特別な加護を受けた番以外の鹿人は、ほとんど普通の人と変わらぬまま抵抗のすべもなく捕らえられてしまう。男たちはその場で処刑され、女たちの多くも暴虐の余波に呑まれて命を落とした。カンナは為す術なくその惨状を見届けるほかなく、やがて兵士に連れ去られ帝都で奴隷として売られる。
買い取ったのは悪徳の領主。気まぐれな暴力と屈辱の反復に、カンナの天真爛漫さは磨耗し、感情は薄氷のように沈黙していく。
そんなある日、領主同士の争乱が勃発し、彼は妻子とごく少数の奴隷――カンナもその一人――を伴って籠城に踏み切る。火矢が夜空を裂き、邸内に戦火が迫ったそのとき、カンナの前に一頭の鹿が現れた。角は光を反射し、毛並みは虹色に輝き神々しく、まさしく神の名を冠するにふさわしい相。
神鹿『ハク』は告げる――「私の番となるなら、逆境を越える力を授けよう」と。
しかし、争いを知らずに育ったただの村娘に、その言葉は響かない。幾たびもの屈服の強要に心はとうに折れ、反抗の意思も凍りついていた。だが戦禍はすでに屋敷に及び、このままでは誰ひとり生き残れない。
そのときカンナを救ったのは神鹿ではなく、共に連れられてきた幼馴染・シズクだった。彼女はカンナを庇って火矢を受け崩れ落ちる。失血に色を失う指先を握りしめ、カンナは決断し番となる契りを受け入れるのだ。
もう光は戻らない、それでも、彼女たちは進む。愛を、等価の代償で支えながら。
これより先、乙女達によって気づかれるのは数多の墓標、彼女達は全てを奪った人間を決して許しはしない。