あらすじ

『白衣が鳴るたび、君を好きになる』

白衣が鳴るたび、君を好きになる。

朝の光が点滴のしずくに砕け、
消毒液の匂いが胸の奥まで届く。
ピッ、ピッ、と心電図。
「大丈夫、痛くしません」——
君の声は体温で、私の震えをなだめる。
ラテックス手袋がきしむ音、聴診器のひやり。
メモの紙に走るボールペンは、小さな潮を引く。

昼。
自販機のコーヒーは苦い。君は砂糖を入れない。
スイングドアが戻るたび、風が白衣を鳴らす。
「次はできる」——短い合図が、長い午後を押す。

夕方から夜勤へ。
ナースコールは雨粒みたいに落ち、
造影剤の金属の匂いが喉に残る。
非常灯の橙が、君の横顔の輪郭を削り出す一瞬、
伸ばした私の手を、君の指が確かに掴んだ。
「離さない」——唇ではなく、手技で交わした約束。

屋上。
点滴袋みたいな雲が流れ、風が白衣を鳴らす。
「先生が好きです」夜に少しこぼれた告白。
君はうつむいて、かすかに笑う。
「泣くのは後でいい。今は生かすほうを選べ」
胸の器具庫みたいな心臓が、内側から扉を叩く。

朝。
名札の角がひと筋きらめき、
退院の拍手が廊下を満たす。
子どもの髪を撫でる君の手を見て、
私は深く息を吸う——塩味は汗、甘さは安堵、匂いは春。

白衣が鳴るたび、君を好きになる。
それは恋であり、勤務表より正確なリズム。
救いたい“誰か”のために選んだ拍が、
二人の鼓動を、今日もそっと重ねていく。

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アルファポリス
アルファポリス2025/09/11
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