あらすじ
去年のお花見デートは散々だった。
せっかく千春に作ってもらった弁当に、黒くて大きい虫が桜の木から落ちてきたからだ。
その虫は背中についたご飯のせいで、身動きが取れなくなり、背泳ぎみたいに脚をバタバタ動かしていた。
腹が立って、俺は黒い虫を殺した。
◆
「ね、今年のお花見デートは、美術館でしよ?」
妻の千春はそう言って、新聞に載せられた広告を俺に見せる。
内容は【美術館で最新鋭の|VR《バーチャル》お花見祭り】と|銘《めい》がうたれた、桜の絵画を集めた企画展の案内だった。
確かにここなら、弁当に虫が入る可能性はない。
脳裡に浮かんでしまった、手足をばたつかせる黒い虫の幻影を追い払って、俺は笑顔で賛成した。