あらすじ
美術部の高校生・アキは、夏休み前に出された課題「あなたの一番大切なものを描きなさい」に頭を悩ませていた。彼女の心に浮かぶのは、密かに想いを寄せる同級生・石川春樹。
しかし、春樹のことを何も知らないまま、その姿を描こうとする自分に、アキは迷いを感じていた。そんなある日、親友のミカから「春樹が夏休み中に転校する」という噂を知らされる。突然の現実に戸惑うアキを、ミカは雨の中でも叱咤し、「描いて、告白しなよ」と背中を押した。
覚悟を決めたアキは、嵐の夜、一人で美術室にこもる。けれど、うまく描けない。筆を握るほど自分の無力さが突きつけられ、感情が爆発する。そんな時、ミカが嵐の中駆けつけてくる。ミカの何気ない一言──「この絵の春樹くん、こっち振り返りそうじゃない?」──が、アキに「自分の感じた春樹」を描く勇気を与えた。夜明けとともに完成したその絵には、“私が見た彼”が刻まれていた。
だが、夏休み明け、春樹は本当に転校していた。空っぽの席を前に、アキは、伝えたかった想いも届けられぬまま立ち尽くす。絵に意味があったのかも分からない。
そんな彼女に、再びミカが言葉をくれる。「描けたってことは、もう答え出てたんやろ?」。アキは気づく。自分はこの恋を終わらせるために描いたのだ。キャンバスに閉じ込めた「描くより先に、伝えたかった」想い。それが、彼女の“色”になったのだと。
やがて三化展で彼女の作品『あの夏の逆光』は金賞を受賞する。展示会でその絵を見つめ涙する一人の女性を見た時、アキは悟る。届かなかった想いでも、絵は誰かの心に触れ、共鳴することができるのだと。
――描くことで、彼女は失恋と引き換えに自分自身に出会った。美しい夏の逆光の中、アキが見つけたのは、恋の終わりではなく、創作という始まりだった。