あらすじ
「くそっ、まただ!」
昼下がりの街角。ざわめく人並みの奥で、おれは立ち止まり、片手をビルの壁につき、吐き捨てるように声を漏らした。
「また、取り逃がした……」
おれはある男を追っていた。ついさっきまでの話じゃない。もう、ひと月近くになる。何度も、何度も……。
ある日の午後、道を歩いていたおれは、うっかり財布を落としてしまった。幸いにもすぐに気づき、振り返ると財布がぽつんと一つ、アスファルトに横たわっていた。胸を撫で下ろし、おれは小走りで駆け寄ろうとした――そのときだった。
一人の男が、先に財布を拾い上げたのだ。「あっ」と思ったが、別に慌てることじゃない。中には免許証が入っている。持ち主がおれだと証明するのは簡単なことだ。