あらすじ
ベルサイユ学院の卒業式。煌びやかなシャンデリアが吊るされた大広間に、王都中から集まった貴族の若者たちが並んでいた。
その中央で、思いもよらぬ宣告が響き渡った。
「公爵令嬢マレーネ=シュタイン! 今日をもって、君との婚約を破棄する!」
声の主は侯爵家の三男、ルドルフ=フォン=グランデル。茶色の髪をきれいに整え、堂々とした表情で言い放った。場内がざわつく。誰もが驚きを隠せなかった。
婚約破棄。しかも公爵家令嬢に対して、式典の場で。
「……は?」
マレーネは澄んだ青い瞳を瞬かせた。腰まで流れる金髪が揺れる。十五歳、誰もが憧れる学院一の美少女。その彼女の唇が、震えることなく開かれた。
「理由を、聞かせてもらえるかしら」
ルドルフは胸を張って答えた。
「君が、男爵令嬢アーガリーをいじめたからだ!」
場にいた生徒たちが、一斉にアーガリーのほうを見た。桃色の髪を揺らし、潤んだ瞳を伏せる小柄な少女。両手を胸の前で組み、か弱いふりをしている。
「ルドルフ様……わたくし、耐えられなくて……」
その姿に、マレーネはふっと鼻で笑った。
「ふざけないで」
場の空気が一瞬で変わった。マレーネの声は、冷たく、鋭かった。
「私がいじめた? そんな事実はないわ。ただ、この女がぶりっ子して、あなたたちの前で涙を浮かべているだけでしょう」
アーガリーの顔から血の気が引く。だが、ルドルフは必死に彼女を庇った。
「嘘をつくな! 彼女は泣きながら訴えていたんだ! 君が陰で冷たく突き放したと!」
「突き放した? そうね、無意味にまとわりつかれるのは迷惑だったわ。だから一度距離を置いただけ。あれを“いじめ”と呼ぶのなら、この場の誰もが罪人になるんじゃなくて?」
会場に小さな笑いが起きた。何人かの生徒はうなずいている。アーガリーが日頃から小芝居が多いのは、皆も知っていたのだ。
ルドルフの顔に焦りが浮かぶ。しかし、彼は引き下がらない。
「と、とにかく! 君の性格の悪さは明らかだ! そんな女とは婚約を続けられない!」
「……そう」
マレーネの笑顔がふっと消え、青い瞳が鋭く光った。その瞬間、周囲の空気がピリピリと震える。
彼女の体から、圧倒的な魔力があふれ出したのだ。
「な、なに……っ」
ルドルフとアーガリーが同時に後ずさる。床がビリビリと振動し、会場の壁が一部、音を立てて崩れ落ちた。魔力の衝撃にシャンデリアが揺れ、悲鳴が飛び交う。