あらすじ

昭和二十年の夏、戦地に送られた夫の戦死公報を受け取った女は、四人の幼子を前に涙を見せず、柱に寄りかかりながら「これからは私が父でも母でもある」と静かに言った。 戦後、軍人恩給は米一俵にも満たぬ額だったが、彼女は「ありがたい」と言い切った。恩給は夫の命の証であり、子らを生かす細い糸だった。 親戚の冷たい視線、口減らしの陰口、養子に出せとの勧めにも、彼女は笑って受け流し、夜には蚊帳の中でひとり涙をぬぐった。 畑を耕し、内職をし、日雇いに出て、麦粥と干し芋で子を育てる日々。電気を使わず油皿の灯りで過ごす夜、子らは母の語る昔話に耳を澄ませた。 教育こそが貧しさから抜け出す道と信じ、祖母は筆箱代わりのお菓子箱に漆を塗り、模様を描いて「世界に一つだけの筆箱だよ」と手渡した。 子らは成長し、働きに出て家計を助け、家にはようやく人並みの暮らしが訪れる。 晩年、孫に「戦争がなければ」と言われても、祖母は静かに首を振り、「あなたたちが元気でいてくれる。それだけで幸せなんだよ。」と答えた。 誰もが「わずか」と言った恩給を、祖母だけは「ありがたい」と言った。 その言葉にこそ、庶民の誇りと美しさが宿っていた。

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エブリスタ
エブリスタ2025/08/19
  • 現在の作品祖母の暮らしと軍人恩給