あらすじ
大陸の西端、豊かな草原と穏やかな気候に抱かれた小国――ヴェルディナ王国。
その名はまだ若く、周辺の古き強国と比べれば、歴史の浅い新興国にすぎない。だが、人々の心に深く刻まれたもう一つの呼び名がある。
――「お菓子の国」。
初代王女セリーナが甘味をこよなく愛し、小麦と乳の恵みを基盤に農業と畜産を育んだことから、ヴェルディナでは菓子作りが盛んに行われてきた。蜂蜜を使った黄金のケーキは民衆の誇りであり、遠方からの旅人を魅了してやまない。
戦乱絶えぬ大陸にあって、この小国だけは甘やかな香りと人々の笑顔で彩られてきた。
しかし今、その笑顔の影に、不穏な影が忍び寄っている。
北の大国ガルデリア帝国は領土拡大を進め、東のバルカン諸侯連合は利権を求めて剣を鳴らす。どちらもヴェルディナの豊かな農産物と菓子産業を狙い、機を窺っているのだ。
そんな中、国を支えてきた先代国王が病に倒れ、玉座はその若き娘へと委ねられた。
彼女の名は――アウローラ・カロリオット・ヴェルディナ。
齢わずか十代にして、国の命運を担うこととなった新女王。
民は「アウローラ様」と親しみを込めて呼び、官僚たちは「女王陛下」と礼を尽くし、周辺国の王侯は「小国の若き姫君」と侮る。立場も、呼び名も、期待も思惑も――彼女の肩に一度に降りかかってきた。
けれど、アウローラにはただ一つの信念があった。
「ヴェルディナは、甘味の香りとともに笑顔を守る国であるべきだ」と。
豊かで、しかし脆い国を背負う少女の物語が、今、幕を開ける。