あらすじ
昭和二十年八月十五日、敗戦の日。四国の寒村で暮らす景司の家族は、金も米もなく、わずかに残ったメリケン粉で家族にすいとんを作った。涙を隠しながらすすったその味は、惨めでありながらも確かに命をつなぐ糧であった。戦後も景司は「食べられるありがたさ」を胸に刻み、畑を耕し、子を育て、働き抜いた。やがて一家は豊かになったが、毎年の終戦の日にはすいとんを食べ続けた。それは飢えを忘れぬ誓いであり、亡き戦友や犠牲者への供養でもあった。時が経ち、景司が世を去っても、家族はその習わしを守り続けた。玄孫の世代にまで受け継がれた「味気ないすいとん」は、もはやただの料理ではなく、戦争を語り継ぎ、命の尊さを思い起こさせる祈りそのものとなった。一椀のすいとんが、家族と国の記憶を未来へと繋いでゆく物語。