あらすじ
百年の祈りの末に生まれた、無垢なる付喪神の私。
宿命の縁は、心を凍てつかせた魔払い師との偽りの婚礼。
魂が響き合うとき、凍てついた旋律は、愛の調べに変わるのでしょうか。
あらすじ:
古社の御神木から作られた箏(こと)は、百年の長きにわたり、人々の平穏への祈りを受け続けてきた。そして、清浄な霊気の満ちる月夜、私は生まれた。箏の付喪神、白音調(しらね しらべ)。人の姿を得たばかりの私は、世界のこと、自分のこと、そして「心」というものが何なのかも、まだ知らなかった。
そんな私の前に現れたのが、九条戒人(くじょう かいと)という青年だった。彼は、人に害をなす異形の存在「魔」を祓うことを生業とする魔払い師。その瞳には、拭い去れない悲しみと、世界そのものを拒絶するかのような昏い影が宿っていた。
戒人の一族は、かつてこの地を襲った大いなる「魔」を封じるという、重い使命を背負っていた。しかし、その封印は今、破られようとしている。封印を再び完成させる唯一の方法は、清浄な霊力を持つ付喪神と、九条家の者が魂を縛り合う神聖な儀式――「婚儀の契約」を結ぶことだけ。
戒人は私に告げる。「お前には、世界を救うための道具になってもらう」と。
彼の言葉は冷たい。けれど、契約によって繋がった魂を通して、彼の心の奥底から悲痛な叫びが聞こえてくる。彼は、ただ誰かが自分と同じ悲しみを味わうことのないよう、たった一人で戦い続けてきたのだ。
私は決めた。まだ知らないことばかりだけれど、この人の隣で、その凍てついた心を癒す旋律を奏でたい。偽りの婚礼から始まるこの縁が、いつか真実の愛になりますようにと、祈りながら。
これは、世界を救う宿命を背負わされた無垢な付喪神が、偽りの夫となった青年の心の闇を照らし、真実の愛を見つけていく、和風幻想譚。