あらすじ
第二次世界大戦から八十年後の現代。東西の大国が小国の内戦をきっかけに軍を動かし、世界は核戦争寸前に追い込まれていた。地球を二度滅ぼす規模の核兵器が配備され、開戦まで残り一日。停戦交渉の仲介役を任されたのは、日本の弱々しく頼りない首相・山田啓介だった。
交渉の場は緊張に包まれ、東西の代表は互いに一歩も譲らない。世界中の人々がネット中継を見ながら絶望し、核シェルターに避難するなか、山田は交渉が行き詰まった休憩時間に突如、炊飯器とチキンラーメン、卵、鰹節を取り出し、思い出の料理を作り始める。
呆れる代表団だったが、漂う匂いに食欲を抑えられず、共に食卓を囲むことになる。やがて話題は各国の「母の味」や若き日の苦労話に移り、敵対していた両陣営の心が次第にほぐれていく。互いに故郷や母親を思い出し、誰もがホームシックに似た感情に包まれた。
食後、再開された交渉は驚くほど円滑に進み、停戦は成立。核戦争は回避された。全世界は歓喜に包まれ、東西の代表は山田に「あなたのおかげで思い出の料理を失わずにすんだ」と感謝する。
——人類を救ったのは、政治力や軍事力ではなく、人の心に残る「思い出の料理」だった。