あらすじ
階段からの転落で記憶を失った私を支えてくれるのは、優しい夫。
彼の献身は温かく、安心を与えてくれる。けれど、時折胸の奥をかすめるのは、言葉にならない違和感だった。
実家に帰りたいと告げたとき、彼の瞳に宿った冷たい影。
それでも「君には僕が必要だ」と告げるその声に、私は抗えず身を委ねてしまう。
ある晩、彼が用意したデザート――タルトタタン。
そのひと口が、忘れていた過去を呼び覚ます。
それは「愛」という名の鎖に縛られ、逃げ場を失った日々の記憶だった。
甘くて、ほろ苦い味わいとともに揺れる心。
恐怖と安らぎの狭間で、私はまだ抗おうとしている――。