あらすじ
梅雨時、川の堤で土嚢作りのボランティアをする僕は、雨で印字が滲み、別の文字に変わる「雨字」に気づく。軽い気持ちでSNSに投稿したその写真が、町で起きた水難事故と奇妙に符合したことから、僕の日常は静かに侵食され始める。
「雨の名は、呼ばれると軽くなる」。ボランティアの古老から、この地に伝わる「名寄せ」という古い風習と、名が持つ「重し」としての役割を聞かされる。やがて、雨に濡れた土嚢には、十年前に川で行方不明になった祖父の名が浮かび上がる。
軽口の代償か、それとも逃れられぬ運命か。「重い方を持て」という言葉を胸に、僕は増水した川と、名に宿る見えざる重さに立ち向かう。これは、水と名、そして責任を巡る物語。