あらすじ
プロローグ
夕暮れが街を染めるころ、古びたビリヤード場「ブルーキャット」の窓から柔らかな灯りが漏れていた。静かな街角にぽつりと浮かぶその光は、まるで誰かを待っているかのように温かく、しかしどこか切なさを含んでいる。
颯太はその扉を押し開け、心の奥にいつもある静かな期待と少しの不安を抱えながら、店内のテーブルに向かった。キューを握る手に、夢と希望、そして誰にも言えない愛する存在への想いをそっと託す。球が撞かれ、滑るように転がる音が、世界のすべてになる瞬間――それが颯太の生きる証だった。
家では、小さな白猫ミルクが静かに尻尾を揺らし、玄関まで迎えに来る。疲れた肩にかかる柔らかな毛の温もりは、どんな孤独も不安も溶かしてしまう力を持っていた。学校では目立たない存在の自分でも、ミルクの瞳を見れば「もう少し頑張ろう」と思える。世界がどれだけ冷たくても、心を温めてくれる存在がいる――それが颯太の小さな誇りだった。
しかし、心の奥には葛藤もあった。家族は安定した未来を望み、大学進学や就職こそ幸せの証だと言う。けれど、颯太の胸にあるのは、光る球とテーブルの上で自分を試す瞬間の喜びだった。夢を追えば孤独が待つ。それでも、諦めきれない想いが胸を熱くする。
そんなある日、颯太の前に現れたのは光希――自由で、真っすぐな笑顔とまっすぐな言葉を持つ少女だった。「夢って、諦めるものじゃなくて、挑戦するものだよ」
その言葉は、颯太の心の奥で静かに炎を灯した。未来が見えずとも、夢に向かう勇気をくれる存在の登場だった。
街は夕暮れに包まれ、窓の外にはゆっくりと色を変える空。小さな白猫の温もり、ビリヤード台の静かな音、そして新しい出会い――すべてが颯太の胸に刻まれ、物語のページは静かに、しかし確かに開かれていく。
そして、颯太はそっとつぶやいた――
「君と一緒なら、どんな未来でも怖くない」