あらすじ
土砂降りの中、告白は終わった。
離れていく傘、頬に刺さる雨。金髪の男子が現れ、十年来の幼なじみ・結衣は笑って駆けていく。
「ゴム、忘れんなよ? 昨日みたいに途中で切れると、マジで萎えるから」
そんな軽薄な言葉にすら嬉しそうにする結衣は。
十年の歩幅は、彼に向かう三歩に追い抜かれた。
失恋後、学校の屋上の縁へ来た——そのとき、澄んだ歌がぼくを呼び戻す。
声の正体を追い、辿り着いた、立ち入り禁止の旧図書室。
銀糸の髪、黒曜石の瞳。月乃(つきの)まひるは指を唇に当て、ぼくを見つめた。
「……秘密、守れますか?」
美しさのあまり、他人を寄せ付けない雰囲気を纏う彼女。
一歩、また一歩。誰にも触れさせないはずの“距離”が、彼女のほうから侵食してくる。
布越しの体温と、ほどける弛み。
重みを含んだ柔らかさが、腹の前で静かにとどまる。
濡れるのなんて、どうでもいい――と、背中に交差させた腕が言っていた。
「わたしの鼓動、届きますか。……元気、出ますか?」
離れなきゃ——そう思うたび、彼女はほんのわずかに腰を寄せる。唇は首筋のそばで止まったまま。
「視覚を、消して」
目を閉じる。闇の密度が増す。音と呼吸と体温だけが輪郭になる。ぼくの鼓動は彼女の拍に重なり、雨の痛みは少しずつ撹拌されていく。
——結衣。
「別の女の子のこと、考えてます?」
耳の奥を貫く、低い囁き。
「……誰を思っても構いません。——わたしが、受け止めますから」
「これで、わたしたち。共犯ですね、先輩」
雨の日に失くしたものは戻らない。
それでも彼女の声は、僕の内側で何度でも響く。
——背徳の温度でしか読めない、やさしい罪の物語。合図は、彼女の呼吸の中で鳴る。