あらすじ
東京・谷中の片隅で古書店「雨読堂」を営む佐伯涼は、ある春の日、店先に現れた一人の女性に息を呑む。
彼女は大学時代に淡い想いを抱きながらも離れてしまった写真家・立花翠。
八年ぶりの再会だった。
仕事の取材でこの界隈に通い始めたという翠は、古書店に足を運び、何気ない会話を重ねるうちに、かつて語られなかった過去の断片がふたりの間に浮かび上がる。
涼の左手に残る古傷、翠が決して見せようとしない古いモノクロ写真——それらは、ある事故とすれ違いの春に繋がっていた。
涼の友人で喫茶店主の岡部悠真や、古書店に集う常連たちが紡ぐ日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。
しかし、翠が追う写真のテーマには涼の家族にまつわる秘密が絡んでおり、再び二人を引き離しかねない事実が待っていた。
隅田川沿いの夜風、桜舞う坂道、コーヒーと古書の匂い——
過去と現在が静かに重なり合う春の終わり、二人は再び桜の下で向き合う。
そこで交わされる言葉は、八年越しの想いと、失われた約束の続きだった。