あらすじ
十年前、世界は「食肉廃止宣言」を迎えた。
牛も豚も鶏も姿を消し、人々は代わりに昆虫タンパク──特にコオロギを食べるようになった。
巨大企業《オルタナティブミート社》が供給する甘く香ばしい「コオロギ・バー」は、未来の象徴として華々しく宣伝される。
都市に生きる佳奈も、その恩恵を受ける一人だった。
だが、配給カードと自販機を通じて日々それを口にする中、佳奈はふと気づく。
──もう都市には、あの翅の音がしない。
記憶にだけ残る夏の夜の声は、なぜ失われたのか。
育成工場の現実、広告の裏に隠された真実、反対派の小さな活動──
甘いバーを噛みしめるたび、佳奈の喉は重くなっていく。
やがて彼女は、「未来のために」と唱えられてきた食卓に、静かな疑問を突きつけることになる。