あらすじ
四国野口町で自動車修理会社に勤め上げた景司は、定年を迎えた。先輩たちの言葉に期待し、「悠々自適」「趣味三昧」「旅行三昧」の老後を夢見ていたが、現実は厳しかった。年金支給までの5年間、退職金だけでは暮らしはつなげず、妻美津子とともにアルバイトを始める。体力は徐々に奪われ、趣味も旅行も遠のいていく。だが、ふたりは静かに支え合い、つましくも穏やかな日々を重ねていく。
年金支給後、仕事を辞めた景司は、家の中にある小さな幸せに気づいていく。庭の草花、湯気の立つ味噌汁、縁側の昼寝、孫との折り紙、それらが、ふたりの灯となって心を照らす。老いとともに歩む日々の中で、景司は思う。「家、それぞれの幸せがある。我が家はこれで良かった。」。静かな風が吹く町で、ふたりは今日も肩を並べて暮らしている。