あらすじ
シンは船の乗組員です。
小さなころから海にあこがれ、船で働くことを夢見てきました。そしてようやくその夢をかなえ、仲間たちと一緒に大きな船に乗り込みました。
けれども、思い描いていた毎日はやってきませんでした。
みんなが甲板で働いたり、料理を作ったり、舵をとったりしているあいだ、シンは船室で横になり、ただ時間が過ぎていくのを待つだけ。最初のうちは「どうしたんだ」「元気を出せ」と声をかけてくれる人もいましたが、やがて誰も何も言わなくなりました。シンは「寝そべっている子」として見られるだけの存在になっていったのです。
本人も「どうせ自分は役に立たない」「衣食住は足りているんだから、このままでもいい」と気持ちを止めてしまい、日々をやりすごすようになっていました。夢をかなえたはずなのに心は空っぽ。毎日が灰色に見え、何も楽しいことが見つけられません。
そんなある日、船が大きく揺れました。鉄でできた船だから心配はいらない――そう思ったシンでしたが、耳に飛び込んできたのは、いつもと違う仲間たちの足音。ドタドタと走り回る騒がしい音。その中に、場違いなように響く「コツン、コツン」という落ち着いた足音が混ざっていました。
シンは思わず身を起こし、遠くを見やります。見知らぬ影が、こちらに向かって歩いてくるのが見えました。船員ではない、見慣れない服と帽子をかぶった人物。その人はゆっくりと近づき、シンの目の前で立ち止まると静かに言いました。
「行きますよ、シン。」
なぜ自分の名前を知っているのか。どうしてこの船にいるのか。シンにはわかりません。ただ、その人――シダーと名乗る人物との出会いが、長く止まっていたシンの心を再び動かすことになります。
本当は、シンは怠けたかったわけではありません。夢をかなえたあとに心の中が空っぽになり、「自分は何がしたいのか」が見えなくなってしまっていたのです。誰にも言えず、ただ寝そべっているしかなかったシンに、シダーは「もう一度歩き出すきっかけ」を差し出します。
これは、夢をかなえながらも立ち止まってしまった少年が、新しい旅へとこぎ出す物語。
灰色に見えた日常が、再び色を取り戻していく。
海の上で眠っていた心が、波のように大きく揺れ、やがて未来へと進んでいく。
シンとシダーの出会いは、ただの偶然ではない。そこから始まる物語は、彼の人生を、そして読む人の心をも大きく変えていくことになる。