あらすじ
「苦しむあなたを見て何も思わずにいられるほど、私の心は強くありませんでした」
玲湲《れいえん》は、忌み神《いみがみ》となった玄蛟《げんこう》にそう告げた。
五行神《ごぎょうしん》の守護によって建国され、繁栄してきた国「夌《りょう》」。
先代皇帝の悪政によって一時国は乱れたが、新しく即位した皇帝は夌を立て直そうとしていた。しかし先帝時代から雨が激減し、各地の水源も涸れ、水不足で農作物が育たないために食糧供給が不安定で、国の復興が思うように進まない。
祭祀を司る神儀台《しんぎだい》が儀式を行うと、先帝時代に悪政が蔓延ったために、皇帝一族が持つ土の行《ぎょう》が水を司る神、玄蛟を蝕み、忌み神にしてしまったと判明する。
そして、水の徳を持つ家の娘を巫女として玄蛟に仕えさせればその力が戻るという黄麒《こうき》の神託が下った。
皇帝は、巫女として玄蛟に仕えた娘が見事役目を果たした暁には皇太子妃として迎えると宣言する。
玄蛟は人間を嫌い、しばしば水害をもたらす気難しい水神として知られていたが、娘を皇太子妃にできるならばと多くの貴族が娘を送り出した。しかし巫女の務めを果たせた者は一人もおらず、全員が戻って来てしまった。
玄蛟の力が弱ったままでは干ばつが続いて飢饉が深刻化していくばかりであるため、皇帝は頭を悩ませる。
そんな中、水の徳を持つ湛《たん》家の忠冀《ちゅうき》が、娘を巫女にすることを申し出た。
そして、忠冀の二人の娘のうち、妹の玲湲が巫女となり玄蛟の元へ向かった。
家族の思惑を知りながらも、務めを果たす覚悟を決めて。