あらすじ
お前に問う。
無限の孤独の中で、神になる権利を与えられたらどうする?
ここは深宇宙を征く、人類最後の箱舟。
たった一人、コールドスリープから目覚めた男「オレ」の役目は、次の世代のためにこの鋼鉄の棺桶を守る「管理人」。彼は目覚めて早々、生命のエキスを搾り取られた抜け殻のような父親を、無慈悲なリサイクル炉に自らの手で投じ、その任を引き継いだ。
絶望から逃げるように、彼はシミュレーション空間「今津(イマヅ)」にダイブする。
そこは、彼が絶対的な神として君臨する世界。天候も、物理法則も、そこに住む人間(NPC)の感情すら、すべてを意のままに操れる偽りの楽園だ。
彼はその全能の力で、己の孤独を癒すためだけの完璧な「ハーレム」を創造しようとする。魂なき人形を侍らせ、虚構の愛を貪る、冒涜的な神の遊びを――。
だが、全能は、永劫回帰の地獄だった。
すべてが思い通りになる世界に、驚きはない。裏切りもない。予測不能な激情もない。ただ、魂が腐り落ちていくだけの時間が無限に続く。
「誰か、この完璧な世界を、めちゃくちゃにしてくれ」
その魂の絶叫が引き金だったのか。
彼は、父親が遺した唯一の謎、禁断のプログラム「クラック」に手を出してしまう。
「世界に飽きたら使え」――その言葉の意味も知らずに。
次の瞬間、彼の王国は侵された。
シナリオにないはずの「転校生」。
神(オレ)の命令を嘲笑う、財閥の「ご令嬢」。
彼の全能の権限が一切通用しない、美しきバグ。
その女は、一体何だ?
父親が仕掛けた最後の叛逆か? 死者の怨念が生み出したゴーストか?
それとも、孤独な神を殺すために送り込まれた、世界の破壊者(救世主)か?
これは、最後の人間が神を辞め、人間に戻るための闘いの記録。
偽りの楽園(ハーレム)が、たった一人の「思い通りにならない女」によって地獄へと変貌する、創世と破壊の神話である。