あらすじ

タイのバンコクから帰国した飼い主を自慢の毒牙に掛け、殺害したブラック・マンバは、浴室の排水管を潜り抜け、漸く道路下の下水管の手前まで辿り着いた。築数十年も経つ排水管は口径が狭い上に錆が酷く、通過するのに地獄のような苦しみを伴った。ブラック・マンバは今、道路下に埋設された下水道の本管の手前でゆったりととぐろを巻き、ボロボロに傷ついた体を癒やしていた。このヘビはもう、かれこれ一週間近くもの間、この場にジッとしたまま動かなかった。目の前を何匹ものドブ・ネズミどもが我が物顔で走り回っているが、天敵であるはずのヘビは微動だにしなかった。この狡猾なヘビは知っていた。今は未だ、その時ではない。飼い主に対して自慢の毒液を使い切り、毒嚢は空っぽの状態だ。やがて、ヘビは体をくねり、ボロボロに傷ついた旧い皮を脱ぎ捨てると、ゆっくりと動き出した。その体長は、既に2m50cmを超えている。旧い皮を惜しげもなく脱ぎ捨てた体は、オリーブ色の新皮でピカピカに輝いている。世界最凶にして最速のヘビだった。日本には居るはずのないヘビだった。そして、キング・コブラをも上回る最強の猛毒を持ったヘビだった。もはや恐れるものは何もない。ヘビは一匹のドブ・ネズミに狙いを定めると、下水管の底に僅かに溜まった汚水の上を音もなく追走した。世界最速の毒ヘビにとって、ドブ・ネズミを追い詰めることくらい他愛もない。ブラック・マンバは鎌首をグイッと持ち上げると、背後からドブ・ネズミの背中に自慢の毒牙を突き立てた。文字通り、目にも止まらぬ「早業」だった。仕留める気なら、いつでも出来たのだ。その夜、ブラック・マンバは下水管を抜け、満を持して深夜の人気ない航空公園に這い出した出した。この夜がスーパー・ムーンに当たることを、このヘビは本能的に知っていた。頭上には、腐った柘榴のような色をした巨大な満月が浮かんでいる。念願の「自由」を手に入れた世界最凶の毒ヘビが、所沢中を恐怖のどん底に叩き落すのは、この不吉なスーパー・ムーンの夜からだった。

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アルファポリス
アルファポリス2025/08/25
  • 現在の作品毒牙 Ⅱ  覚醒のブラック・マンバ