あらすじ
高校物理部に所属する佐藤は、夏の終わりに不可思議な体験をする。部員の田中美咲と行った量子もつれの実験中、突如として二人の意識が量子レベルで結びついてしまったのだ。互いの思考や感情が直接流れ込み、記憶や夢をも共有するようになる。最初は驚きながらも、心が裸のまま触れ合う体験に戸惑いつつ、二人の間には自然と恋情が芽生えていった。
だが繋がりが深まるほど、境界は曖昧になっていく。やがて感覚までも共有し、ついには意識が入れ替わる事態に発展。互いの自我が溶け合い、一人の存在に収束しかねない危機を迎える。恐怖と同時に幸福も伴うその関係が、本当の愛なのか依存なのか、二人は揺れる。やがて「個性を保ちたい」という結論に至り、彼らは装置を逆利用して量子もつれを解除する賭けに出る。
実験は成功。二人は再び別々の存在へと戻った。互いの心は読めなくなったが、その選択こそが愛情を証明するものだと気づく。強制的に共有される感情ではなく、お互いを好きでいることを「選ぶ」ことに価値があったのだ。こうして佐藤と美咲は「普通の恋人」として歩み始める。
一年後、大学受験を控えた二人は再び部室を訪れる。あの装置はもう沈黙しており、何も起こらない。だが美咲は言う。「今は量子もつれなんかなくても、心で繋がっているから」。彼らは確信する。恋は物理を超えた現象であり、測定も予測もできないが、それゆえに尊いものだと。夕日に包まれながら、二人は未来へ向けて手を取り合うのだった。