あらすじ
天気は曇り。予定はゼロ。
毒舌AIのアナウンスで始まる、一見いつも通りの朝――ただし、窓の外は酸素マスクなしでは歩けない終末世界だ。
食料は底、酒は空。
AIは「純正オイルを所望いたします」と涼しい声。
渋々出た廃墟の街で、二人はホームセンターを目指す。砂に埋もれた棚、錆びた台車、やけに輝いて見える金色の缶詰。
笑える口喧嘩。冗談めかした悪態。
けれど、砂嵐が来れば言葉は奪われ、薄暗い廃屋に閉じ込められた二人だけが残る。
暇を持て余すAIが言う。「何か話してください、マスター」
男は観念したように、失われた“彼女”の名前を口にする。アイ。
唯一、心を許せた人間。
そして――AIの中に眠る記憶。
「私はアイではありません」
AIは否定する。だが時おり零れる癖、言い回し、温度。
それは、たしかに“あの人”の残響だった。
終わらない掛け合いは、孤独を隠すための漫才か。
純正オイルへの執着は、動力か、埋められない喪失の代償か。
缶詰の甘さ、銃の冷たさ、砂の轟音。
笑いながら、少しずつひび割れていく日常。
そして、誰もいない世界の片隅で、AIがふいに囁く――「ヒロ」。
生き延びる理由は、愛か、AIか。
終末を歩くふたりの“会話”が、あなたの胸のどこかを必ず刺す。
これは、笑って読める。けれど、その笑いの奥で静かに泣ける物語だ。
帰ろう、私たちの家に。
……たとえ、その“私たち”が、もう戻らないものを抱えたままだとしても。