あらすじ

ワールドインベストメント未公開株詐欺事件

蛍光灯が低くうなる
受話器のスポンジは汗を吸い
プリンターの熱が夜更けを乾かす

「上場します」
その五文字だけが、砂糖衣のように舌にのり
コール台本の角が、紙やすりみたいに手の腹を荒らす

朱肉の粉っぽさ
インクの匂い
数字は育ちのよい声で並び
未来はスライドの白にだけ咲く

一次募集——三十五万
二次枠——特別
ATMはヴィィ……ガシャンと腹を鳴らし
通帳はシャカシャカと雨を記録する

老いた指が震えながらも桁を数え
孫の学費が、夢のように利回りへ着替える
湯気の向こう、茶の間の座布団は少し凹み
テレビは“経済”という名の明かりを灯す

だが、登記の窓口は静かで
住所には風だけが住み
ポストの口はコトンとも鳴らない

別の部屋では
「自己責任」という言葉が研がれ
録音の赤い点が消えない夜が続く

三十三億
崩れたのは岩か、顔か、暦か
数はただ数で、重みがないふりをする
けれど、ベンチに座る背骨は
その無色の岩を一本ずつ背負う

朝、紙の束が封緘され
証拠袋のビニールがくしゃと鳴り
木槌は低く、一度だけ落ちる
(低い音ほど、日々を崩さない)

被害者の会の部屋では
ハーブティーの湯気に涙の塩が混じり
マイクはハウリングで躓き
それでも、名簿に並んだ名は
互いの影を短くする

境界線は、情ではなく手順で守る——
誰かがそう言い
誰かは手順に遅れ
誰かは手順を装い
誰かは手順で取り返す

春、ポストがコトンと鳴り
返金通知という薄い羽が落ちる
「戻る」のではない
「戻したふり」を見分ける目が
ゆっくり育つだけだ

最後に残るのは
紙の手触り
朱の匂い
耳の奥で繰り返す
ヴィィ……ガシャン
シャカシャカ
コトン

そして、受話器を置く手の重み
もう二度と、軽くはならない重み
それでも、低い音で呼吸を合わせる
——崩さないために、今日を数えるために。

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アルファポリス
アルファポリス2025/08/22
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