あらすじ
冷たい空気に肺を清められる感覚を、もう何度体験したことでしょう?
あと何度繰り返せば、あなたに逢うことができるでしょうか?
そんな物思いにふけながら、朝焼けに染まる東の空を揺れる椅子の上で今日も飽きずに見つめていた。
「ユード神父様は今日もお早いですね」
その声にゆっくりと振り向くと、驚いたように目を見張った新米の修道女が、水差しを抱えながら扉を開けて入ってきていた。くりくりとした焦げ茶の瞳がぱちぱちと瞬き、彼女の感情を語っている。それを穏やかに見ていた僕は、いまだに衰えることの無い動きで立ち上がった。窓辺に手を添え、遠くの空から昇る太陽を目を細めながら眺める。
「四十半ばを過ぎると、どうしても朝が早くなってしまいましてね。それに朝焼けの空は、大切な人との思い出の時なんです。その人に逢える気がして……どうしても目が覚めてしまう」
この町に潜んでいた吸血鬼を退治した僕は、それからも神父としてこの町の発展を支えてきた。まわりとは違う自分の見た目を活かして移民を受け入れ、彼女の願いを叶えようと神に仕え続けた。
そうすれば……。
「いつかまた、その人と出会える気がしたんですよ。……約束したのでね」
先月この教会に来たばかりの彼女はとても聞き上手だ。いつも知らないうちに、自分の心情を話してしまう。その失態に恥ずかしくなり、いまだに黒々とした髪を撫でる。その小麦色の手に朝日が当たり、柔らかい空気が自分と修道女を包んだ。
新米の修道女は口元をきゅっとひきしめて、穏やかに笑って側にあった机に水差しを置く。そうして神父の隣に立つと、胸の十字架を握りしめてそっと彼の思い出に触れた。
「すてきなお話ですね。よろしければその方のお話をもっとお聞かせくださいませんか?」
「……良いですよ。あなたがそれを願うなら……」