あらすじ
ある春、個別指導塾の教室で出会った教師・紘一と、生徒・美幸。
鉛筆の音だけが響く静かな空間で、ふたりは少しずつ心を通わせていく。
美幸は看護師、そしてフライトナースになる夢を抱き、紘一はその夢を支えながら、凍っていた自分の心が少しずつ溶けていくのを感じていた。
模試の結果に涙する美幸。
前期試験の不合格。
それでも諦めず、後期試験に挑む姿に、紘一は胸を打たれる。
ふたりはドラマを見ながら時間を共有し、やがてLINEを交換し、雪の駅前の写真を送り合うようになる。
そして、知らない街のワンルームで交わされた、静かなファーストキス。
大学進学後、美幸は少しずつ自立し、紘一の存在は彼女の生活の中で小さくなっていく。
紘一はその変化を受け入れながら、彼女の幸せを願い、距離を置く決意をする。
やがてLINEのやり取りも途絶え、季節は巡る。
3年後、大学4年生として成長した美幸が教室を訪れる。
彼氏との同棲を語る彼女の姿に、紘一は静かに微笑みながら、心の奥に寂しさを抱える。
そして、最後の告白。
「好きだった。そしてそれは、今も変わらない」
美幸の返答は「ありがとう」。
それは、優しさと静かな別れの言葉だった。
紘一は、スマホの画面に残る美幸との記録を見つめながら、そっと呟く。
「……ありがとう、美幸」
春の風が、ふたりの季節の記憶を静かに包み込んでいた