あらすじ
とある町に、一人の奇妙な中年の男がいた。ついた呼び名が、『死にたがりおじさん』。彼はいつも「死にたいなあ」と呟きながら、町をぶらついているのだ。薄汚れた服を着て歩くその姿からは、悲壮感そのものが匂ってくるかのようだった。
最初の頃は心配して声をかける者もいたが、どんな言葉を投げかけても、返ってくるのは決まって――「死にたいなあ」。
「何かあったんですか?」
「死にたいなあ」
「大丈夫ですか?」
「死にたいなあ」
そんな調子では、お節介焼きな人も匙を投げる。やがて人々は関わらなくなり、その存在は日常の風景の一部になっていった。
ある夜のことだった。
おじさんは駅近くの花壇の縁に腰掛け、ため息混じりに「死にたいなあ」と呟いた。背中は石のように丸まり、目はどこか遠くをじっと見つめている。街灯に照らされた横顔は、沈んだ色を帯びていた。