あらすじ
京都東町奉行所与力神沼貞太郎は、丹波山中にある八丁山の見分を仰せつかり、山人となっていた源右衛門とその子供である絹江と源吾に出会った。元は篠山藩に出仕していた田城源右衛門。藩を致仕したことと妻が鬼籍に入った経緯は語らなかった。そこでは狼に指図し石打に凄技を見せる源吾に驚かされ、絹江の美麗の相を思い知らされていた。
翌年、享保の大飢饉が起こり、労咳となった源右衛門の薬代のため身売奉公を決意した絹江は京に旅立った。内野茶屋街の煮売茶屋丹波屋で仕事を始めたが、女主の伴をした北野天満宮の初天神では、絹江の美麗を吉野大夫の成変わりと噂されていた。北野天満宮では古着商の笠松屋善兵衛に会い、嫡男嘉兵衛との婚儀の思惑で京へ連れ出された算段を聞かされた。その笠松屋は後妻の多紀と情夫信太郎の悪巧みで善兵衛が亡き者にされ、殺められる恐れを感じた嘉兵衛は絹江と共に四国遍路の旅に出た。それは番頭佐平の土佐高知へ千両の為替を送るとの約束であった。だが高知に着くと為替は不渡りであり、遍路旅の途中で助けた土佐藩士の娘武井妙の縁により土佐藩勘定方大滝忠左衛門の知遇を得て煮売屋を始めた。三年後、大滝忠左衛門が店を訪れ、土佐藩の産品を扱う店を京の錦小路に開くことになった。
源吾は父親の死を看取り、怨念を晴らすことを至願した。それは父親の留守を見計らって母親を手籠めにした山脇久二郎を打ち果たすことで、父親より授けられた居合の技を磨き、四年後に篠山へ向かった。篠山川に身を沈めた母親の墓に父親の遺骨を埋葬し、住職からは山脇が京に行ったことを教えられた。京に来た源吾は鴨川で鴨を捕るが、お触れに背く行いとして神沼貞太郎より悲田院に預けられる。そこの公役である六角牢の勤めで、入牢者の中に山脇を見つけた。その三日後、牢抜けがあり、町奉行より命を受けた源吾は洛北鷹峯に抜牢者を追い詰め、山脇を打ち果たして遺骸は狼の餌食とした。更に、西に向かった抜牢者も捕らえ、この褒賞で鴨の罪が許され、同心にまで取り立てられた。
高瀬川筋で料理屋を開いていた丹波屋に神沼貞太郎が招いた絹江と嘉兵衛。そこに同心となった源吾が現れ、姉弟の再会となった。その年の秋、姉弟は八丁山を訪れ、墓前で山脇を打ち果たした話をすると父親が幻影となって現れ、姉弟を温かい眼差しで見ていた。