あらすじ
この小説は、平安時代中頃の正暦五年(九九四年)に大流行した疱瘡(モガサ)の元凶とされた大江山の酒呑童子と、その征伐を行った源頼光の物語である。
鉱脈を有する大江山を住処とする酒呑童子は、国元で暮らせなくなった民人を山のめぐみで支えていた。都の貴族は、いずれこの山の鉱脈に目を付けるはずで、鬼熊童子(阿古也)を貴族の動きを探る役目として都へ遣わしていた。
鬼熊童子は、貧しい民人を救うことが先祖から受け継がれた酒呑への遺志であり、自らの志でもあった。そこで、炊き出しやら道端に捨て置かれた骸の埋葬しており、そのような時に五月と言う娘に出会い共に暮らすことになった。
疱瘡の猛威で国事の執り行いにも滞りをきたすことになると、帝は元凶を占う命を陰陽師安倍晴明に下した。晴明は占いの結末を、大江山の鬼王の所業と奏上した。これを受けて関白藤原道隆は、四人の武将を集め大江山の鬼王征伐を命じたが固辞された。その裏には、鉱脈を有する大江山を、その手で治めようとする藤原道長の思惑があった。翌年道隆が亡くなるとすぐさま道長は、鬼王の征伐を源頼光に命じた。
大江山では、酒呑の参謀となる茨木童子が山を守る備えを整え、鬼の恐ろしさを風聞として都で言い触らすよう鬼熊に指図した。
大江山へ攻め上がった頼光の軍勢は、茨木の奇策に苦しみながらも鬼の館を囲み童子と名乗る修験者達の首を取り遺骸は荼毘にふした。
戦に遅れた鬼熊は、酒呑や童子の首を取り戻そうと都へ戻る軍勢の前に立ったが、渡辺綱に蹴散らされ由良川の流れに沈んだ。
大江山を留守にしていた茨木は、頼光の軍勢の後を追うように都へ登り、童子達の首を取り戻そうと画策する。その最後に羅城門において綱と対決したが、右腕を斬り落とされ都より去って行った。
数年後の春、疫病を鎮めるために新たな堂宇が建てられた紫野の社に、都での記憶の曖昧な鬼熊が、鬼の風体をして現れた。花びらが舞い散る桜木の下で踊りを舞っていた時、都に戻っていた五月と再会することになった。
おおよそ百五十年後となる九寿元年(一一五四年)春、この参詣を禁ずる命が内裏より出された。そこで、この命の裏には、疱瘡の元凶とされた鬼の祟りを恐れたのではないかと、巷で話す老人がいたようである。その老人の右腕は失われ、話す言葉は鬼の恐ろしさを語る風聞でなく、鬼と称して生きていた山の民の姿であった。