あらすじ
夏目漱石といえば、たいていの人の印象では、もちろん小説家だろうと思います。『こころ』とか『坊っちゃん』とか『吾輩は猫である』といった小説を書いた人。
今回ぼくが読むのは、その漱石さんの『文学論』です。
『文学論』っていうのは、小説家である漱石さんが書いたものじゃなくって、小説をまだ書いてなかった頃に、東京大学でやった講義をまとめたものなんです。
漱石さんは、小説家になる前は先生でした。地方の高等学校で英語を教えたあと、二年間ロンドンに留学して、留学から帰ってきて、東京大学の英文学の教授になりました。
漱石さんはロンドンで、次のようなことを考えるんです。
「余はここにおいて根本的に文学とは如何なるものぞといへる問題を解釈せんと決心したり。」
その成果が『文学論』なんです。
『文学論』を講じ始めたとき、漱石さんはまだ小説家ではなかったんです。でも、『文学論』が本になったときには、漱石さんは小説家になっていました。
漱石さんは、『文学論』の内容を考えている間に、「文学が何であるか」がすっかり分かったかどうかは分からないけど、「どうやって文学を実践したらいいか」ということについては、かなりはっきりと掴んだことがあったんじゃないのかなって思います。
漱石さんは『文学論』に取り組んだあと、一気呵成に小説を書き始めます。それから十年くらい、ほとんど休みなく小説を書き続けて、亡くなる直前までずっと書いてました。最後の小説『明暗』は、未完の絶筆です。
漱石さんが東京大学で『文学論』を講じ始めたのは1903年(明治36年)で、漱石さんが亡くなったのは1916年(大正5年)でした。享年49歳です。