あらすじ
安倍セイメイの名は二つある。史料には晴明、説話には清明。幼名も同じく二つ、童子丸と尾花丸。
一つの伝承に二つの名前。それが示すところは一つ――安倍セイメイは二人いた。その片方は母の血を濃く引いた、目に見えぬ狐の妖。二人で一人の双子の兄弟。
史料と説話、伝承を元に再構成し、全く新たな解釈で綴る安倍晴明奇譚。
――その双子は妖(あやかし)の子、狐畜生との混ざりもの。人の姿をした兄と、狐の姿をし、人間の目には映らぬ弟。半分人間半分妖、どこにも行き場のない兄弟。
陰陽師に彼らは追われ、母は討たれた。母の仇は賀茂忠行――後に安倍晴明の師と語られる男――。
仇を追う旅の中で兄弟が出会うは、後に乱を起こす藤原純友。陰陽術を操る謎の男、貞明。協力を申し出る彼らが引き換えに持ちかけたのは、とある「神器」の強奪だった。
やがて兄弟の前に立ちはだかるのは、かつて死したはずの弘法大師『空海』。そして「暴悪無雙(ぼうあくむそう)」「悪君の極み」の名を残す上皇『物狂いの帝』。
彼らは敵か味方か、そしてこの旅の結末は――。
ここに描かれるのは、神秘の幕に包まれた謎の大陰陽師の姿ではない。
その双子は人間であり狐であり、妖でありどこにも居場所など無い。
この世のうちで、たった二人の安倍晴明。