あらすじ
南海トラフ地震に備えて、海岸には津波避難タワーが建っている田舎町では、みんな地震と津波に向き合いながら、おそらく自分たちには何も起きないと思って暮らしていた。大人たちは子どもたちに未来を託し、託された子どもたちは彼らのエゴを感じつつ大人になる。
平良未来は公立進学校の伊都高校に在籍していた。小・中学生と親から言われるまま、生徒会長を務め、高校に入っても生徒会へ在籍していた。伊都高校の生徒会は独特で自由と自治をDNAに刻まれていた。すべて生徒会と生徒の話し合いで決められた。生徒会側で平良未来は討論をしていたが、ここしばらく妙な違和感に襲われ、このままでいいのか悩んでいた。
釣り好きの長坂は小・中学生と目立たない生徒だったが、釣り部の創部に執念を燃やしていた。子どもの頃から社長の息子と言われ、家庭では認めてもらえず、これまで何一つ自分で成し遂げていない自分を変えたかった。「自由と自治」の中、自分の意見を通し、偉大な父を見返したいと考えていたが、途中で諦めた。
岸末涼子は中学のとき、中学受験に失敗したあと、義理の父親の性的な恐怖に怯えた。転校後の中学生の頃、何とか言葉を出して隠れるように暮らした。高校の今、ありもしない被害を訴えていたのではないかと、自分自身を疑い、責めるようにもなっていた。また母から帰ってこいという伝言が追い打ちをかけてきた。
転校生は同級生にからかわれ、暴力を振るわれて怪我をした。寄り添う未来は、高野の芯の強さとやさしさに気づいた。転校生の正体に気づいてしまった。同時に「事件」をなかったことにしようとする大人たちを見て、自分は大人に転がされているのではと思うようになる。
GW前、創部を諦め、生徒会からも責められた長坂は転校生のいる施設を訪ねた。話しているうちに、彼も転校生の正体に気づいた。これからは諦める決断をした長坂にしかできないことがあるのではないかと話して励ました。
ひどい過去を持つ転校生は、すべてのことを包み込む包容力があるが、それは彼自身がすべてに諦めている裏返しだ。彼と接した未来も涼子も長坂も、そしてようやく彼の深淵にある悲しみを知ることで、彼を救いたいと思うようになった。やがて一つの事件に遭い、三人と転校生はお互いに救われる道へと歩んでいく。
転校生は恩師の「遠くへ行け」という言葉の意味もわからないまま、知らない土地に来て未来、涼子、長坂と三人に出会い、被っていた仮面を剥がし、自分を知る。三人三様の悩みを正面から受け止めることで、彼自身が仮面を剥がして成長しはじめた。
南海トラフ地震に備えて、海岸に津波避難タワーが建つ田舎の高校で、大人になりきれないで悩み深い高校生たちの青春がはじまる。