あらすじ
彩人と由里子は、正反対のふたりだった。
計画を立ててから動く彩人と、思いついたらすぐに笑顔で飛び出す由里子。
その違いは、時にすれ違いを生んだが、やがて互いの欠けた部分を埋める力となった。
結婚して五年目の冬、彩人の勤め先が突然なくなった。
先の見えない日々に言葉を失くした彩人を、由里子は黙って支えた。
ある夜、冷たい六畳の部屋で鍋を囲み、湯気が二人の間をやわらかく揺らしていた。
由里子は箸を止め、ふっと笑って言った。
「お金はまた貯めればいいけど、あなたがいなかったら、私は寒くて仕方ないわ」
湯気の向こうで浮かんだその笑顔は、雪解け水のように彩人の胸の奥を静かにほどいた。
あれから五十年。
朝の食卓に差し込む光、道端に咲く小さな花、季節ごとの空の色。
ありふれた時間を積み重ねながら、二人は言葉を超えた信頼を育ててきた。
振り返れば、その半世紀はただの年月ではない。
出会いも、すれ違いも、和解も、すべてがひとつの糸となり、奇跡のように結び合ってきた。
これからも同じ空を見上げながら、彩人と由里子の旅は静かに続いていく。
その足跡は、朝露の光のように、消えそうでいて確かに輝いている。