あらすじ

甲子園常連校として全国に名を轟かせる私立・東雲学園硬式野球部。地方の有望中学生たちが「夢の舞台」を目指して集まるこの場所は、きらびやかな栄光の裏に、誰も口にしない暗い影を抱えていた。 地方の中学で主将を務めた俊足巧打の内野手・三浦拓真は、強い憧れと希望を胸に、この学園の寮「陽明寮」の門をくぐる。しかし、厳しい練習や上下関係は想定していたものの、そこで目にしたのは“勝利至上主義”という名のルールに支配された閉鎖空間だった。 冬のある夜、練習後の空腹に耐えかね、拓真は規則で固く禁じられた夜食──コンビニ弁当に手を伸ばしてしまう。それは彼にとって、単なる空腹を満たす行為に過ぎなかった。だが翌日から、先輩たちによる暴行と屈辱的な強要が始まる。 殴打や蹴り、威嚇、そして人格を踏みにじる言葉。監督に助けを求めても返ってきたのは、「嘘をつくな」「二年生の対外試合がなくなってもいいのか」という心理的圧力だけだった。 孤立した拓真は、寮を二度も脱走し、やがて父の決断で転校を余儀なくされる。父はその選択を「逃げではなく、生き延びるための脱出」と呼んだ。夢を絶たれた息子を守るための苦渋の決断だった。 しかし夏が訪れると、甲子園のテレビ中継に映し出されたのは、あの暴力の加害者たちが笑顔でプレーする姿だった。怒りと諦めが入り混じる中、卒業生で元部員の村井悠斗がSNSで実名告発を行う。それは拓真の事件とは別の時期に起きた、性的いじめや暴行の記録であり、部内に長年暴力文化が存在していた可能性を示すものだった。 沈黙の美名の下に隠されてきた真実は、なぜここまで放置されてきたのか。なぜ学校も組織も、選手を守らなかったのか。 拓真は自身の経験と村井の告発を重ねながら、この場所の構造的な闇を直視する。やがて、「ここでは、何が起きてもなかったことにする」という暗黙のルールが、自分の中にも染み込みつつあったことに気付く。 これは、夢と暴力が交錯する“甲子園の裏側”を舞台に、閉ざされた空間で生き抜こうとした少年と、真実を語ろうとする人々の物語である。勝利の歓声の陰に潜む息苦しさと、その中で芽生える小さな勇気を描いた、衝撃の社会派妄想フィクション。

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小説を読もう2025/08/11
  • 現在の作品『あの夏、甲子園の裏で──名門野球部暴力事件の真実』