あらすじ
福岡市から電車で三十分、さらにバスで三十分。田んぼとみかん畑しかない片田舎で、俺、大野陽向は生まれた。そして隣の家で生まれたのが、高宮咲。
物心ついた時から、咲は俺の隣にいた。小学校の入学式で俺の手を引いてくれたのも咲。宿題を一緒にやったのも、お祭りで俺を気遣ってくれたのも咲。いつだって太陽みたいに明るい咲の横で、俺は月のようについて歩くだけだった。
俺たちの秘密基地は、通学路にある古びたバス停。一日数本しかバスが来ないその場所で、駄菓子を分け合い、夕陽を眺めながら過ごす時間が、俺たちの青春そのものだった。
中学生になると、俺たちの世界は急に広がった。部活も違い、帰り道も別々になることが多くなった。咲の周りには男子が増えて、俺の胸にはちりちりとした痛みが生まれた。この感情の正体がわからないまま、俺たちの間には薄い壁ができていく……。