あらすじ
『偽りの花嫁は、紅の檻で咲(わら)わない』
――お前は、あの女ではない。
婚礼の夜、花嫁となったイレーネは拒絶された。
王国の令嬢として、吸血鬼が支配する辺境の地に政治的な婚姻のため嫁いだ少女。
吸血鬼公爵ヴァルドの冷たい瞳が見抜いたのは、彼女が「誰かの身代わり」だという事実。
祝福されることのない結婚。愛されることのない契約。
美しい城は檻となり、血の儀式は鎖となって、彼女を縛りつける。
侍女たちは怯え、城主は沈黙し、夜ごと夢に現れるのは知らないはずの光景。
記憶は曖昧で、過去は霧の向こうにある。自分は誰なのか。なぜここにいるのか。問いは深まり、答えは遠ざかる。
夢に現れる、知らないはずの記憶の断片を思い出すとき、どうしようもなく彼女の心は震えるのだった。
名前を与えられ、役目を背負わされ、魂の輪郭さえ揺らぐ世界で、 真実を知れば知るほど、自分という存在が分からなくなる。
それでも彼女は選ぼうとした――誰かの影として生きるのではなく、自分自身として愛することを。
これは囚われた花嫁が、記憶と運命を超えて咲き誇るまでの物語。