あらすじ
鴻野涼介15歳。
あの日は卒業式の翌日だった。
中学でチームメイトだった伊藤公哉と二人で県営球場まで自転車を漕いだ。ペダルをフル回転させても家から1時間はかかる山の中腹。そこで入学が決まっていた高校の試合があった。
あれは確か8回表だったと思う。
天地が轟き、グラウンドがグチャっと歪んだ。そのあとずいぶんと長い時間、外野席の芝生に這いつくばっていた。
そして ……
悪魔の慟哭のような地響きを聴いた。
その瞬間、涼介は家族を失っていた。
被災者遺族を襲うSNSの住人たち。本当に怖いのは数人の悪意ではなく、正義の仮面を被った何千人、何万人の善意だった。小さな世界で発信された誹謗中傷が、突如無限に現れる正義の使者によってあっという間に100万倍に拡散される。誹謗中傷内容が盛大に盛られて、何百回、何千回と蒸し返される。
SNS《クソ溜め》の世界には、誹謗中傷コメントを成敗することで自己承認欲求を満たそうとする正義の味方で溢れていた。
遥か遠方の叔父に引き取られた涼介は心を閉ざし、闇の中でじっと息を潜めるように殻に籠もっていた。
「気になる ?」
「何が ?」
「他人の目」
⋯⋯ なんだ ?
「好奇な目が気になってしょうがない ?」
⋯⋯いきなり上から ? 何様 ?
「どうでもいい」
⋯⋯なんだ、この女
「そうよね。どうでもいいよね、まわりの目とか、雑音なんて ……」
「ああ、関係ない」
「本当にそう思ってるならいい」
そんな涼介を殻から引き摺り出そうとする少女がいた。