あらすじ
教室の机の数が、いつもよりひとつ多い。
名簿は三十四人なのに、担任は「三十五人そろってる」と言う。
誰も疑問にしないそのズレに、ただひとりだけ気づいてしまった語り手は、プリントの隅に残された消し跡の名前、クラス写真にだけ写る知らない顔、履歴ごと消える会話、勝手に変わるファイル名を目にするたび、自分の記憶のほうが壊れていく感覚に追い詰められていく。
隣の席は“空いているはず”なのに、そこだけ埃が積もらない。椅子には体温の形だけが残る。耳元では、忘れたことのある声がやさしく問う。「ここ、空いてますか」。
存在は、名前で世界に留められる。名前を一つ書き足すたびに、誰かがいなくなり、最後に削られるのは自分かもしれない。
日常の風景が音もなく書き換えられていく“静かな狂気”と、合わない数・合わない記憶が生む圧迫感で、読後にじわりとこびりつく恐怖を目指した学園怪談。読み終えたとき、あなたは昔のクラス写真を数え直し、隣の席に視線を落とすはずだ。