あらすじ
「やっと来たか、あたしのプリンスちゃん。さぁ、恥ずかしがらないで、私の胸の中に飛び込みな」
水もしたたるいい声をした誰かが、あなたを呼んでいる。心地よく響く低音ボイスが艷やかなお姉さんの声だ。
この本を読んでる美少年(多分)「まぁ、なんて凛々しくてかっこいいお声のお姉様なんでしょう? 花も恥じらう美少年の僕 がこんなに、照れちゃうなんて……あなたは、一体何者なのかしら?」
「フフッ、いい質問だな! あたしの名は天邪鬼。お前のような高嶺の花のように美しい男の子と出会い結ばれるために生まれてきた鬼族最強の女さ。鬼と言ってもお前を傷つけたり悲しませたりするような悪鬼じゃねぇぜ。あたしは天邪鬼だからな……お前を悲しませる悪い妖怪共がいりゃあ、素直にのさばらせてやりはしないさ。その不届きな悪党妖怪共を一匹残らずやっつけてやるよ。」
この本を読んでる美少年(たぶん)「あまのじゃく様、素敵です♥」
「フフッ、そうかい? ありがとう。でも、あたしに惚れる君の、輝く宝石のような瞳のほうが素敵だぜ! このお話はあたし、天邪鬼様とその愉快なお供たちがそんなお前の唇を虎視眈々と狙うわるーいおばけに立ち向かう熱きバトルを描いた笑いあり涙ありの王道痛快ファンタジーさ。面白そうだろ?」
天邪鬼は快活な笑みを浮かべた。人懐っこくて、太陽みたいだ。
「なになに〜『ぼくのじゅんけつをねらうわるいおばけのおはなしなんて……ぼく、ちょっとでも、ページをめくったら、こわくて、こわくておひざががくがくしちゃいそうですぅ。ひつじさんをなんびきかぞえても、ねむれなくなっちゃったらどうするんですか?』だって?」
天邪鬼はイタズラっぽく笑った。
「怖がりな男の子は超キュートで超プリティーだな!」
天邪鬼はおとぎ話の王子様のように笑った。
「安心しな。大事なことだから何度も言うぜ。お前を悲しませるわるーいおばけは、一匹残らず、この、あたし、天邪鬼様がやっつけてやるよ。それと……もっと大事なことを付け足すぜ。お前が眠るときは必ず、あたしが抱きしめてやると。例え魔界全土にそのライメイをとどろかせる大魔王様が相手でも、あたしがついているかぎり、お前には指一本触らせないからな。チュッ」
天邪鬼様は唇に指を当ててキスを投げた。
「そこのラブリーボーイズ、見くびってくれちゃ困る。なんと言っても、あたしは、天邪鬼様だぜ!」
天邪鬼はダンスパーティーの会場にいるみたいに笑った。
「何を隠そう! 妖怪と戦えば……泣く子も黙るイッキトウセン!可愛い男の子をナンパすれば……ヒャッパツヒャクチュウ! どんなにイキったチミモウリョウだって……このあたし、超最強美人な大妖怪・天邪鬼様の腕の中で眠る麗しき美男子には手が出せやしないさ……」
天邪鬼はキメ顔でそういった。
「ほら、テンクウを飛ぶイタイケでウチキな美少年天使を撃ち落とす!この小説の主人公、天邪鬼様が、君にあま~い夢を見せてやるよ」
天邪鬼様が耳元で甘く囁かれるとキュン死しちゃいそうな良い声で決め台詞を放たれた。
この本を読んでる美少年(多分)「ぼく、うっとりしちゃいそうです!」
「さぁ、水もしたたるいい主人公!このあたし、天邪鬼様の胸の中に飛び込みなよ!」
この本を読んでる美少年(多分)「はい!僕は、あなたのあったかい胸の中に、飛び込みます」
「あーん、あたしのラブリーボーイィ♡」
天邪鬼様が顔を真っ赤にして、にやけました。
す・る・と……
「あら? 天邪鬼様、どなたが『水も滴る好い主人公』ですって!?」
天邪鬼様の御後ろの方で清澄な水のように美しい少女の声がした。
「ぎくっ」
天邪鬼様が(一瞬、歯の根が合わなくなっておしまいになられたが、すぐに気を取り直して)美しい声の主をご覧になろうとなさると……
バ
リ
バ
リ
バ
リ
バ
リ
ィ゙
ッ
それは青天の霹靂であった。
古代ギリシャの彫刻だって霞んで見えるくらい鍛え上げられた天邪鬼様の美しい筋肉が……バリバリと激しい音を立てながら……一瞬にして凍ってしまったのだ。
「ハックション……ハックショォオオオン!」
天邪鬼様は、不死にも等しい再生能力をお持ちなのですぐに復活なさった。
でも、日照りのない冬日がマシに感じるくらい寒いので大きなくしゃみをなさった。
「うぅ、寒いぜ……こ、こ、これじゃあ、あたしの……素敵な男の子を守るために鍛え上げたから板チョコみたいに割れた綺麗な筋肉が……あたしを白い目で見るつれないラブリーボーイの冷ややかな眼差しと同じくらい冷たくなっちゃうじゃんか……」
意味不明な事をおっしゃりながら、天邪鬼様が振り返ると其処には……
「……………………………………」
男の人が百人いれば百人全員が振り返り恋に落ちてしまいそうな容姿の女の子がいて、しかも、両腕を組み、青筋を立てていた。
天邪鬼はその女の子と目を合わせた途端、はっと息を呑んだ。
その女の子は、まるで宝石のような瞳をしており、ゴミに向けるような目線で天邪鬼を見つめていた。
その女の子は二重まぶたで、苺よりも柘榴のように紅い瞳孔でした。
その女の子は、精巧に造られたお人形さんのような美貌の持ち主でした。だけど、その丸い両目には、一切のぬくもりが見られません。
その女の子は白鳥のように優雅な白いドレスを着ていました。
まるでまっしろな雪の世界のお姫様のようです。
天邪鬼は、背後で屹立していた『雪の世界のお姫様』にこういった。
「ちょ、ちょっと、せっかくの初登場なのに、いきなり冷気を浴びせないでよ! もし、あたしが、天邪鬼様が、夏風邪でも引いちゃったら、何億人の男の子が悲しむかわかってんの!?」
「あら? 例え冷気を浴びせられたとしても、天邪鬼様なら不安も後顧の憂いも心配も何一つありませんでしょう?」
『雪の世界のお姫様』が氷のように冷ややかな口調で言う。
「お馬鹿さんは風邪なんか引きませんもの」
「え!?そうなの!? やったー! あたし、かえるみたいに高くジャンプしたい気分だぜ!
だって、風邪を引かずに済んだら……あたし、いつでも、どこでも、元気もりもりで男の子と遊べるってことじゃんか!元気もりもりならご飯だって大盛りたーべよっと」
「はぁ……これだから天邪鬼様は……」
そっとため息をつく。
「天邪鬼様、確かに貴女は、わたくしの美貌と比べれば随分と見劣りしますけれど、それこそ天と地ほどの差がありますけれど、それでも、一応は妖麗な美人さんですわ……」
「え!?やっぱりあなたもやっぱり、あたしのこと、鬼族最強の美人って思ってくださるんですか!?ありがとうございます、雪花おじょうさま!」
話に水を差してくる天邪鬼を雪花は無視した。
「……お声だって色気があって綺麗な低音がしっかりと響いておられますわ……。幼気な坊やの名前でも呼んであげればよくってよ。 ただ……」
「そのお言葉、うれしすぎてあたし、またうれし泣きしちゃいそうです」
雪花お嬢様は『ただ……』と何かを仰りたかったようだが、天邪鬼がアマノジャクにも遮ってくる。
「天邪鬼様、いちいち、お顔を赤く焼けたようになさらないでください。貴女が頬を赤らめるよりも、わたくしのような上品な女の子がぽっと赤くなったほうが殿方も喜んでくださいますわ!」
雪花お嬢様は一つため息をおつきになられた。
「さて……お話が随分とそれましたけれど……単刀直入に申しますわ……」
「い、嫌な予感」
天邪鬼の嫌な予感は的中だ。
「天邪鬼様……貴女は容姿だけは優れておられます。その調子ならば、物好きな殿方の愛を勝ち取ることもできるでしょう。ただ、分をわきまえてくださらないかしら?」
柳眉を逆立てた雪花お嬢様は、元が美少女なだけにものすごい迫力である。
「天邪鬼様、貴女のような殿方のご都合も考えずに殿方を誘惑なさるようなふしだらな女が……明けても暮れても殿方を追いかけ回して殿方にご迷惑ばかり掛けているようなガサツで下品な鬼族の女が……可憐で清楚なわたくしを差し置いて……この小説の主人公を名乗ろうだなんて……身の程知らずにも程がありますわよ……」
「ち、違うんだよ。あたしはただ、おばけが出てくるお話が苦手なプリンスちゃんが、安心してこのお話を楽しめるようにだなぁ……」
「いくらこの地上の誰よりも美しくて……情け深くて……お化けの世界でも名高いお嬢様であるわたくしだって……流石に我慢の限界ですのよ……」
雪花お嬢様は地団駄を踏み、お顔を真っ赤になさっている。
どうやら興奮して冷静さを失っているらしい。
「……貴女のような出しゃばり屋さんは……何回だって氷漬けにしてさしあげるんだからぁあああああああああ……」
「ちょっとタンマ! 多分絶対止まったら死んじゃうマグロみたいに待ってなんてくれないと思うけれど、あたしはアマノジャクだから意地でもタンマっていっちゃうもん! いきなり、冷気を浴びせてあたしを氷漬けにしようとするお嬢様のどこが情け深いんですかぁあああああああ」
※紹介文と本編でのキャラクター性があまりにもかけ離れているがために、困惑・混迷(要は戸惑うことですわね)なさる方もいらっしゃるとは思いますけれど、それに関する苦情は一切受け付けておりませんの。
どんなにシリアスにあま〜いものがたりを描いた少女漫画だって、巻末のおまけページでは、六頭身から二頭身になってリラックスしたいものでしょう。
それと一緒だとお思いになればよろしくてよ。
わたくしのように麗しいお嬢様は、いかなる心無いお言葉も、酷いお言葉も、そうでないお言葉も、気まぐれ次第で、寛大な心で許してさしあげたり、無視してさしあげたりいたします。
前置きはこのくらいにして、
どうか生温かい目で本編を御覧ください。
それでは、ごきげんよう