あらすじ
冬の終わり、町の公園のベンチに毎日のように座っている青年・健太は、誰とも話さず、ただ空を見上げて過ごしていた。彼は会社を辞めてから、人と関わるのが怖くなっていたのだ。
ある日、いつも同じベンチの端に腰を下ろすおばあさんが現れる。手には紙袋いっぱいの焼き芋。おばあさんはにこやかに「余っちゃったから」とひとつ差し出してくる。健太は戸惑いながらも受け取り、少し会話を交わす。
次の日も、その次の日も、おばあさんはやってくる。焼き芋の日もあれば、飴玉の日もある。健太は少しずつ、自分の話をするようになる。仕事のこと、うまくいかなかった人間関係のこと、そして自分の未来への不安。
ある日、おばあさんは来なかった。気になった健太は、公園の管理人に尋ねると、おばあさんは近くの老人ホームに入ったと聞く。
健太は迷った末、焼き芋を手に老人ホームを訪れる。そこでおばあさんは驚いた顔をして言う。
「まあ…来てくれたの。あなた、笑うとほんとにいい顔ね」
健太はその日、久しぶりに心の底から笑った。帰り道、空は春の色に変わり始めていた。