あらすじ
――雨が降っている。
だというのに、街は燃えていた。
焼け焦げた匂いと、濡れた石畳から立ち上る蒸気が、鼻を突く。
「……ああ、俺はこのまま死ぬんだろうな。」
体が、もう動かない。
握っていた警棒は手から滑り落ち、泥に沈む。
目の前には聖王国の兵士たち――精鋭部隊だろう。
鋭い槍の穂先が、無力な俺に向けられていた。
終わりだ。
そう思った、その瞬間。
――ゴオンッ!
大地を割るような雷鳴が轟いた。
目の前の兵士たちが、一瞬にして黒焦げとなり、次々と地に倒れ伏す。
何が起きた? 理解が追いつかない。
そして。
「……やっと見つけたよ――父さん。」
ゆっくりと歩み寄ってきたのは、一人の男。
黒髪の長い髪が雨に濡れ、紅の瞳が炎の光を映している。
その男は俺を見下ろしながら、静かに微笑んだ。
――魔王イチ。
俺は、そのとき初めて、自分がどれほど取り返しのつかない世界に足を踏み入れたのかを知った。