あらすじ
完璧な笑顔。それは人を安心させ、惹きつけ、心の隙間にするりと入り込む――だがその笑顔の“奥”に、もし何もなかったとしたら?
中堅商社の社員だった「俺」は、同僚の不審死や精神崩壊をきっかけに、ある新人社員・神宮寺ゆかの笑顔に違和感を覚える。彼女は、どんなときも崩れない“完璧な笑顔”を浮かべていた。優しさ、親しみ、清らかさ――だがその表情から、どうしても“人間の体温”だけが感じられない。
次第に、笑顔を向けられた者が次々と姿を消していくことに気づいた主人公は、会社を辞めてまで彼女の素性を調べ始める。浮かび上がってきたのは、彼女の周囲で繰り返される自殺、失踪、崩壊――そして、どんな事件にも必ず残されていた、ひとつの笑顔。
一年後、彼女は「スマイルメソッド」という自己啓発セミナーの講師として再び現れる。誰もが彼女の笑顔に魅了され、心を開き、熱狂する中、主人公だけは決して笑顔を返さず、彼女の“正体”に迫っていく。
彼女は語る――「私の笑顔の中には何もない。でも、空っぽだからこそ、人が入ってくるの」
その笑顔は“仮面”ではなく“空洞”。見つめる者が勝手に希望や善意を投影し、自ら壊れていく構造だ。笑顔とは、人間が無条件に信じてしまう危険な象徴であり、心の奥の脆さを暴く鏡だった。
そして主人公自身もまた、彼女の問いに答えられなくなる――
「あなた、自分の笑顔……まだ覚えてる?」
笑顔の奥に潜むのは、光ではなく闇。
誰もが信じて疑わないその表情が、もっとも人間を破壊する毒だとしたら――
あなたは、まだ人の笑顔を信じられるだろう