あらすじ

室町時代に成立したかとされる『雲隠六帖』(『源氏物語』「幻」の続編、補作・偽書)のうち、第一帖「雲隠」の現代語訳を試みます。テクストは中世王朝物語全集14『松浦宮物語 雲隠六帖』所収の「雲隠六帖」(小川陽子訳注、笠間書院、2021)を底本とし、一定度の潤色を施した私訳となります(後続の「巣守」「桜人」「法の師」「雲雀子」「八橋」については余力のあれば……)。 参考文献: ・『須磨記 清少納言松島日記 源氏物語雲隠六帖』(千本英史責任編集『日本古典偽書叢刊』第二巻、現代思潮新社、2004) ------ アジアに名をとどろかせた最大の誘惑者たる源氏の君は、五十路にさしかかったとき、そろそろ死ぬ心づもりをしなければならないと悟った。 二番目の妻紫の上は、彼が矛盾だらけの婚姻生活を通じていたく愛しつづけた人であったが、その前の年、この苦しみ多いうたかたの世でいささかの善行を積んだ人のおもむく浄土へと、一足先に旅立ってしまっていた。そして源氏は、彼女の微笑を、あるいは泣き出す前の眉のひそめ方を、はっきりと思いだせないことで心を悩ませていた。 【マルグリット・ユルスナール〔Marguerite Yourcenar〕著「源氏の君の最後の恋〔Le Dernier Amour du prince Genghi〕」(同著/多田智満子訳『東方綺譚〔Nouvelles orientales〕』〔白水社、白水Uブックス、1984、原著1938〕所収)より】

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カクヨム2025/05/29
  • 現在の作品〔私訳〕雲隠