あらすじ
「クローディア・ブラック! 貴様の卑劣なふるまいは公爵令嬢として、なにより王太子妃として、とうてい受け入れがたい! よって私、フューシャン・アンベールの名において、貴様との婚約をたった今! 破棄する!!」
王宮での夜会。
貴族たちが入場し、国王と王妃、そして二人の王子が姿を現したところだった。
国王が夜会の開会を宣言しようとしたまさにその時、第一王子であり王太子のフューシャンが前に進み出たかと思ったらいきなりそう叫んだ。
いつのまに近づいたのか、フューシャンの隣にはプリンセスラインのドレスを着た令嬢が寄り添っている。
両親、兄と共に会場入りをしていたクローディアは、ぎりりと奥歯を嚙みしめた。
父ユーイェン、母ローゼリア、兄シュヴァルツ以外の――いや、国王と王妃を含めた国の重鎮以外の面々は、さもありなんとばかりにうなずき拍手している。
「そして私はこのルージュ・ブリュノー伯爵令嬢と結婚する!!」
フューシャンがさらに言うと、周囲の人々がわっと歓声を上げた。が、
「何を世迷言を! フューシャン、そなたは王命に逆らうか!?」
国王が怒りの声を上げると一瞬で静まり返った。
「お言葉ですが、陛下。クローディアの悪逆非道はもはや周知のこと。彼女を王妃にするなど国を不幸にすると同じでありましょう! 陛下は王妃にクローディアがふさわしいと、本気でお考えかっ!?」
「黙れ、何も知りもせぬ小童が! そなたはクローディアの背負う運命を知らぬからそんなことが言えるのだ!!」
王太子が王命に逆らうなど、本来ならあってはならないことである。それをあえて行った、それも貴族たちの集まる、王宮の夜会でだ。
さらに先程の、貴族たちの拍手喝采。フューシャンはすでに根回しを済ませていたのだろう。
怒りに顔を赤くする国王。蒼褪める王妃。弟王子は白けた目でそんな両親を眺めている。クローディアが義姉になるのに反対なのは弟王子も王子も同じだった。
クローディアを王太子妃に、と推した面々だけが、何も知らずにいたわけだ。こんな時でなければあっぱれ見事なりとその手腕を褒め称えていただろう。
固唾を呑む会場に、ギリギリというクローディアの歯ぎしりだけが響いていた。フン、とフューシャンが嘲笑う。
「いかに聖女の娘といえど……凶暴な癇癪持ちではな。いずれ王妃となるには人がついてこないだろう」
そこにローゼリアが進み出た。
「だから断ったのに~。クローディアちゃんはぁ、クローディアちゃんを愛してくれる人じゃないと、めっ、って言ったでしょ~?」
おっとり間延びした口調で、ふわふわした雰囲気のままに、公爵夫人らしからぬことを言い出した。