あらすじ
「ただいまー!」
明るい声が家の中に響く。彼女は軽快な足音で階段を上がり、自分の部屋に入るとドアを閉め、ベッドに腰掛けた。鞄から一冊の本を取り出し、顔に近づけてすーっと匂いを嗅ぐ。そして、大きく息を吐いた。
「新品の匂い……最高」
「だよね」
「えっ!?」
彼女は驚いて本を落としそうになり、わたわたと持ち直した。そして、少しの静寂のあと、一応の落ち着きを取り戻した彼女は問いかける。
「……今、喋ったよね?」
「うん、そうだよ」
「嘘……喋ってる……」
彼女は驚きのあまり、口を開けたままベッドに倒れ込んだ。無理もない。本屋で買ったばかりの新品の文庫本が、どういうわけか話したのだから。