あらすじ
恋だのなんだのということは、よく分からない。ただ、私はなにかにつけてあのひとのことを思い出すというだけのことだ。
あのひととはじめて会ったとき、私は9歳だった。父が私を、あのひとに会わせたのだ。理由は、いまだに分からない。子どもだったあの頃も分からなかったし、大人になった今は、もっと分らなくなった気がする。とにかく父が、私を銀座の喫茶店に連れだした。あの日は平日だったはずで、私に学校を休ませたのだろう。わざわざそこまでして、あのひとと私を会わせたかったわけだ。母は、一緒にいなかった。専業主婦だった母が、私のずる休みや、父と一緒に出掛けたことに気が付かないはずもないのだけれど、なにかを言われた記憶はない。父が、上手いこと誤魔化して私を連れ出したのかもしれない。