あらすじ

満開の桜のもとに川べりを散策するのは楽しいですね。ご存知ですか?この華麗きわまる桜の木が陰陽道で云えば陰に属することを。そう云えば花も葉もない冬の、幹だけの桜の木にはどこか陰湿な気が漂います。まるで中原中也の「生まれちまった悲しみに」を述べるような、あるいは憂き世の荒波に堪えながら必死に日々を過ごす、私たち自身の寡黙な姿をあらわしているようにも見えます。このような陰の木であればこそ、一時期思い切って‘あてをきわめる’花を咲かすのかも知れません。見事に咲いて、しかしいくばくもなく花は散ってしまいます。実に短い花の命。千年万年の悠久の時と比べれば私たち人の命もあるいは花と同じようなものなのかも知れません。散った桜の花は側を流れる川面へと落ち、花筏となって海へと流れて行きます。それはちょうど亡くなった多くの魂たちがひとつの流れに集ってあの世へと流れて行くようでもあるし、あるいはその亡き魂たちを鎮める灯篭流しのようでもあります。どちらであってもその美しいことに限りはない。  さてそのような花片の一枚一枚ではあっても、そこにはそれぞれの花の来歴というものがあります。花の数ほどもある人間たちの来歴、遍歴が、それぞれの命を掛けた言挙げというものがありましょう。私にもあります。行く水に任せた花々を見るように、しばしその一片なる花の言挙げに耳を傾けてみてください。はたして良い散策となりますでしょうか。一生懸命言を尽くさせていただきます。

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エブリスタ
エブリスタ2018/11/03
  • 現在の作品エッセイの散歩道 第一巻